Lの色彩
「どんなのとぶつかったの? おっさん?」
「花形部署のエースだよ」
「それだけで女慣れしてそう」
「なにそれ、悪口じゃん」
言いえて妙だなと思ったことは秘密にしておこう。
たしかに見かけるたびに違う女性と話している、といえばそれはある。
とはいえあれはどちらかといえば女性のほうから声をかけに行っているんだろうからナンパでもしてるのかという場面にはさすがに出くわしたことがない。
上司もみんな褒めているから営業成績以外にもいろんなものが良いのだろう。
「まあ、見つかんなかったらまたプレゼントするよ。あれでしょ、あの赤いやつ」
「ありがとう、でもあれ気に入ってたからさあ、悔しいなあ」
気にいるだとか興味があるだとかは「明確な好意」とは分類されないらしく満が良く使う単語でもあった。
「今日はこれからどうする?」
「このまま銀座とかでいいんじゃない? 服見に行って歩きながら考えよ」
「オッケー」
満は自分が奇病にかかってから、自分でできる限り友達を遠ざけた。
冷たい態度をとったり避けるようにしてみたり、先生は知ったうえでなにも言えなかっただろう。
悪いことをしたかもしれない。いじめにはならなかったけれど、人付き合いは下手になったし、いまだにあまりうまく他人とは話せない。
仕事だからと慇懃な態度をとっているから秘書課ではうまくやれているけれど、個人的な付き合いなんてあまりない。