Lの色彩

 昔はあんなに感情表現が豊かだったのに、とアルバムの中の自分にだって何度も問いかけた。

 親だって兄弟だってこんな根暗っぽい成長するなんて思いもよらなかっただろう。

 一人は孤独だった。

 それ以上に忘れることが怖かった。

 なにかのはずみで、好きだと口にしたらどうしよう。

 なにかに流されて好意を示してしまったらどうしよう。

 忘れていく。自分が大切にしたいはずのものが、全部、乾いた砂のように指の隙間から落ちていくような感覚がした。

 口が乾いてうまく笑えない。恐怖に支配された状態で、友達との会話を恐れるくらいならひとりぼっちのがマシだろう。

 それが彼女の選択だったはずだったのに。

「満が言えない分はあたしがぜーんぶ好きっていうから今日もがんがん冬服選んでこ」

「まだ秋口だよ?」

「そろそろ冬物になるって!」

 愛理がどういうきっかけで自分が罹患してることを知ったのかは正直覚えていない。

 親に聞いても覚えていないから、本当に単なる偶然だったのかもしれない。

 けれど今こうして自分の代わりに彼女の口からストレートに好きだという単語を吐き出してもらえるだけで満は十分に幸せだった。

 理解者の有無。

 彼女と色人の違いはそこにある。

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