Lの色彩
店に入りカフェラテを注文する。今日も変わらず寒いので同じ轍は踏むまいとホットにした。彼女もホットの、キャラメルラテを注文していた。
仕事終わりらしき客がちらほらいる程度で昼間ほど混んではいない。
壁際の空いている席へ向かう。彼女をソファ側に座らせるとふと壁の絵が目についた。
厳密には、見えなかったからそちらを見たのだが。
「テイクでもよかったですね、なにかお礼をしなきゃと思って……話したこともないのに、すみません」
「そんな、こちらこそ。ああ、その、愛島さん、赤がお好きなんですか?」
どう切り出そう、なにか世間話を。
営業のときの自分の顔が思い出せず慌てて口からこぼれたのは自分が聞きたかったこと。あの日、彼女と目が合ったときに感じた違和感のようなもの。
「そうですね、一番いい色だなと思ってます」
ああ、ほら、違和感の正体はこれだ。
確信なんかは何一つないし、見てわかるものでもなかったけど、病院でいつも奇病科に足を踏み入れた時の眩暈とよく似ていた。
彼女はきっと自分と同じだ。
「そうそう私、いつもキャラメルなんですよ。これが一番…」
「……愛島さん?」
「あ、いえ、なんでも、うん、キャラメルがね、おいしいなーってつい毎回……」
言いよどんで、虚ろに笑った。
メニュー表写真よりもキャラメルソースが多めにかけられたそれは満の手によくなじんでいて彼女が指定してきたから、よくここを利用するのもなんとなくそうなのだろうと感じる。
「高橋さんとお茶してるなんてほかの女性社員に怒られてしまいますね」
よく笑う人だな、と思う。人見知りもしなければ黙り込むこともない。
一方的に話しているわけでもなく、それでもただ笑おうとしているのだけは他人より少し違和感を感じずにいられない。
作り笑いだとわかる。仕事用の顔だ。自分もそうだからわかってしまう。