Lの色彩

「ずっと瀬戸口先生にお世話になってるんですよ、あのー、総合病院の」

「…わたしも、瀬戸口先生に」

「じゃあ一緒ですね」

「いつ、気づいたんですか、私が奇病科に罹ってるって。私はなんにもわかんなかったのに」

「ぶつかったときは別に何とも。名刺入れが赤だったの気づいたときになんとなくそわそわして。確信したのは今日会ってからですけど」

「私なにかおかしいですか?」

「好きって単語使うの避けてるでしょ」

 ああ、ばれるんだ。満はそんな表情を浮かべていた。

 気にしなければわからないレベルなのだろうが色人にはそうでもなかったらしい。

 いつも自分は瀬戸口医師とのあの日の約束を念頭に置いているくせに、うっかり「好き」だと言いそうになるのだ。

 そろそろ言わない癖がついたっていいんじゃないのかとここ数年思ってはいるがどうもうまくいかない。

 深いため息をついてからコーヒーカップを傾けた。

「私、亡愛症候群なんです」

「聞いたことありますね。でも別に口に出したって問題ないやつじゃ?」

「普通は両想いなのに拗らせて忘れちゃうってパターンらしいですね。だから字が違くて」

 テーブルに常設された紙ナプキンを一枚抜き取って、ボールペンを走らせる右側に亡愛。左側に忘愛。

「多分、高橋さんの知ってるのは忘れるほうの忘愛症候群。私のは亡くすって書く亡愛症候群。文字通り、そのものが何なのかって認識すら亡くすんです」

 厄介ですよね、と彼女は笑った。
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