Lの色彩


「そんな顔してない」

「してるって。だから恋じゃねーのって聞いてんじゃん、大人とは思えないわ」

「本当になにもないんだ」

 自覚はない。恋なんて長いことしていない。最後に好きだったのだって、中学生のときに同級生をなんとなくかわいいなと思っていたとかその程度だ。

 大学生になってからだって、そんなに縁もないし積極的でもない。

 女性がそばにいることは多いから経験豊富なんだろうと酒の席でネタにされることもある。が、生憎そういう面白い話題は持っていない。

 彼女が欲しいかと聞かれれば、まあ居たらいたで、とそのくらいでだからといってそんな軽率に満を好きになったとかそういうことではないはずで。

 ないと思いたいだけかもしれないが、とりあえず今の自分のなかでは「なし」だ。

「色人さ」

「なんだよ、だから満さんとは」

「お前隠し事向いてないよ」

 ひやっとする。ああそうだ、こういうやつだった。いつもは軽いノリでいるからつい忘れがちだけど本来こういうやつだった。

 奇病について、隠してるつもりはない。ただ言う必要がないと思っているだけだ。

 それでも日常生活でなにひとつとして支障がないのかときかれるとそれがそうでもなかったりする。赤い看板が、と指定されて一瞬首をひねってしまったり、赤い服を着ている奴を見てギョッとしてしまったり。

 大きく態度に出しているつもりはなかったけれど涼嶋なら気づいてたっておかしくない。

「愛島さんには隠し事してないっぽいし、だから楽なんじゃん?」

 でもアタシ、色人の本妻の座は譲らないわよ、なんて裏声で言い出すものだから大きく噴き出した。

 本当にこいつは、頭悪すぎるだろう。でもだから友達になったんだった。何も聞かないから。

「こんなごつい本妻いらない」

「まあ! なんてこと言うのよ! もうばかばか!」

「気持ちわりい」

 自分が治る、なんて一度だって思えなかった。もう一生このままだろうって信じて疑わなかったし、それでいいやって投げやりだった。

 童話症候群の薬に意味なんかないって封も切らないで、まして飲むことなんてするはずもなく。

 いつまでそうしてればいいんだ。俺はずっとヒトモドキで、失敗作だと思って生きていかなきゃならないのか。涼嶋に何も言えないまま、満とずるずる傷を舐めあえばいいって?

 そんなのはごめんだ。

「悪い、たった今用ができた。午後の予定は全部キャンセルする」

「いまぁ?」

「そう、今」

「ふーん、愛島さんとこ行くんだろ」

「残念、満さんじゃない」

 もうやめよう。諦めることをやめてやる。ため息をつくのはもう疲れたんだ。

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