Lの色彩

 とはいえ、関りがないことで「自分はこの世界で独りぼっちだ」「自分だけが人間になれなかった生き物だ」という思考が生まれやすいのも本当だ。童話症候群の根底には強い「孤独」が居座っている。

「食性遺伝だとか、汗毒体質だとかパッチワーク病だって俺はその症状を知っていてもその患者は知らない。だからその人がなにと戦ってきたのかなんてずっと知らなかった」

 これからもないはずだった。同じように理解されないはずだった。一人なのだと感じていた。

 これから先に、希望なんて見いだせないって本気で信じていたはずなのに。

 患者がいたって、その人の症状を知っていたって、なんの慰めにもならなかったのはいつだってそれが治らないもので結局自分とは違うと思っていたからだ。

 けど今はそうじゃない。

「酷なことをいいますけど、前向きになってくれたのは嬉しい。でも治療法がないという事実は変わりません」

「本当に? 何一つとしてないんですか」

「亡愛症候群に関して言えば、あれは本来、忘れる愛と書きますから完治例がないことはないんです。愛島さんからなにか聞きましたか?」

「家族が死んだ前例ってやつなら」

「まさに。厳密には大切な人が目の前で死ぬであって家族に限定はしませんが」

 大切な人、と聞いて眩暈がする。じゃあ、だったら、俺だったらあるいは、彼女を救えるかもしれない、と思う。

 時間はかかるだろうし、もしうまくいっても彼女が死にたくなるほど悲しい思いをするのもわかる。

 だけどもし奇病が完治したら、それで口にだしても忘れないでいられるなら、新しい未来を彼女が積み重ねてくれるなら、それを彼女が許してくれるなら、いつかそれを過去の話にして幸せになってくれるかもしれない未来があるなら。

 そうじゃないと言い聞かせてきたけれどもう認めよう。俺は彼女が好きだ。

 だったら、彼女のためになら何回だって死んでやる。
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