Lの色彩

 この階で見かける顔ではないなと思ったのと、綺麗目な恰好だったのでおそらく秘書課の人だろうとあたりをつける。

 大きな会社だ。他部署の人間の顔なんて全部は覚えていない。

 歩き出そうとしてつま先に違和感を感じる。

 手探りで触れるとサイズ的に名刺入れやカードケースの類のようだった。

 さっきの彼女が落としたのだろうかと恐る恐る開けてみる。

 見慣れた自分と同じデザインの名刺。やっぱり秘書課の人かとため息をついた。

 あまり頻繁に会える課の人じゃない。総務に預けようかとも思ったが数秒躊躇ってからポケットに仕舞った。

 追いかけても見つけられる気がしない。それより今は食いっぱぐれないほうが重要だ。

 名刺の名前を頭の中で繰り返す。

 秘書課、愛島満。

 ただ妙に引っかかる名前だとそのときは思っただけだった。

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