Lの色彩
「ペットとかではだめみたいなんです、医者としていいたくないけど人間に限定されてるんですよねえ……まったく困った……おっととと、失礼」
瀬戸口医師の症状は体のどこかに植物が急に生えるもの。
花に関連する病は結構多く、基本的にそのどれもがなにか代償を支払う。
例えば、寿命、たとえば記憶、例えば誰かの心を感知してしまう、とかそういうものを。
瀬戸口医師の症状は予知性花咲症と言って、不特定多数のいつかの未来に関連する花が咲くのだという。
例えば、桜が生えてくると穏やかな気持ちになるらしく、花見に行ったときにビビッときてそれが一致する、といったような。
予知夢や既視感に近いものだけどそのどれもに必ず花が咲くという病だ。話だけ聞いていれば美しいのでうらやましいと思ったこともある。
「最近よく顔に出るんですよね、前は肩が多かったんですが。……さて、これは初めて見ましたねえ」
顔から花を払うと、その手にあったのは鮮やかな紫の花だった。
「……いい花じゃ、なさそうです」
仕事柄、嫌なものを見ていることもあるだろう。奇病患者の最期は、人の姿でないことも多いと聞く。
「お二人の未来ではないことを祈っています」
そう言って笑う瀬戸口から色人は目をそらせなかった。