Lの色彩

 欲が出てきたんじじゃないか、と頭を振って雑念を振り払う。

 動機が不純とは言え好きなものは好きだ。好かれたいし、求められたい。

 もしそうなったらやりたいこともたくさんあって、そんな未来が許されるならきっと彼女と真面目に付き合って、プロポーズをしたりしたかもしれない。

 その先もずっと隣にいることを望んでしまう。

 彼女がいれば、たとえ一色くらい見えなくたってそれを塗りつぶすように世界の彩度は高くなっていくのに、その色さえも彼女はいつかなにかのはずみで一つずつ忘れていってしまう。

「お前、最近なんかおかしくない?」

「そうか? やる気に満ち溢れてるぞ」

「そ・れ・が! しれーっとしたタイプだと思ってたのになんかあったんか」

「やりたいことができた」

「仕事? 愛島さん?」

「自分のことだよ」

 もう少し、もう少しだけ。毎日それを繰り返して、彼女に声をかけ続けて、それを不愉快に思われなければあとはただ好きだと伝え続ければいい。

 近い未来に満を傷つけて悲しませるために彼女を幸せにしようなんて本末転倒もいいところだと思う。

 同じくらい、彼女と一緒に生きていきたいし、それができないくらいなら早く死にたいという二律背反の中を生きている。

 色めき立つ世界のすべてが彼女によって塗られている。

 そのすべてを愛おしいと思って視界に焼き付けるには自分たちは不完全で時間が足りない。

 誰かを愛するって、すごいことだ。

 なのに、満の口に鉄格子でもかぶさっているような気がして、同じくらい何もかもが憎い。

 俺が彼女を救わなきゃ。

 自分で決めた、身勝手な使命を満は許してくれるんだろうか、と明日のデートの待ち合わせ時間を打ち込んで送信した。

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