Lの色彩
多分小学六年くらいになったころ。
学校のテストで教師が使う赤ペンの色が認識できないことがまれにあった。
先生、俺だけどうしてマルがついてないの? と質問をしたら教師は驚いたようにここに点数も書いてあるとプリントの右上を指さした。
色人には何も見えなかった。先生のいたずら心かと思ったのだ、最初はそれでもよかった。
いつからか赤だけが、およそ赤に分類される鮮やかなその色だけが自分にはどうしても見えなかった。
通りすがりの女の子の背中に背負われたランドセルはその姿もなく、すりガラスのような輪郭だけがそこにあって、きらきらとオシャレをしている夜の町の女性ドレスも同じく見えないものだから空中から突如として手足が生えているようで悲鳴をあげたこともある。
神社の鳥居が、赤富士の絵画が、リンゴジュースのパッケージが、赤いものが認識できなくなっていた。