双生モラトリアム
事情を話すと店長は心配してくれて、絆創膏と消毒薬を貸してくれた。おまけに、給料の前借りで5万を封筒に入れて手渡してくれ…涙が出るほどありがたい。
それに比べて、他の人たちは無関心に「お大事に」と言うだけ。
(仕方ない……事実、私のドジで転んで用事を果たせなかったのだし)
あの時、転ばなければもしかしたら社長の歯ブラシは先に買えていたのかもしれない。数分のロスがミスに繋がった……いつものように。
こんなことが、私にはしょっちゅうある。自分では努力しているつもりなのに、タイミングが合わなかったり都合が悪くなったり……そして結果が出なかったり、ミスになり周囲に迷惑をかけてしまう。
(じゃあ、どうすればいいのよ……私だって一生懸命やっているのに……)
店長のおかげでいけた産婦人科の待合い室で、泣きそうになりギュッとハンカチを握りしめた。
そのタイミングで看護師さんから名前を呼ばれ 、慌てて立ちあがりスリッパが脱げかけて転びそうになった。看護師さんが「大丈夫ですか?」と助けてくれたけど。周囲から、クスクスと笑い声が聞こえて……恥ずかしすぎて、急いで診察室に飛び込んだ。
けれど、まさか。
「……唯?」
いつもの女医とは違う見知らぬ男性医師に、突然名前を呼ばれるとは思いもよらなかった。