双生モラトリアム
いつもは冴えない顔しかしない母さんも、樹と舞が来れば楽しそうで上機嫌になる。
わかってる。
本当はお母さんが、舞の方を気に入ってること。舞の方を可愛がってる……という事を。
そりゃあ舞は生徒会長を務めたり、推薦で国立大に合格したし、誰もが知る一流企業に就職した優秀な娘。おまけに大企業の将来の社長候補の御曹司と婚約。
自慢になるのも無理はない。
(私とお母さんじゃ冴えない日常しか送れてないものね……)
常に分厚い雲に覆われたような灰色の、なんの刺激も楽しみもない毎日。お母さんが舞の華やかな部分に触れて、それを拠りどころにしたいのはわかる。
(……ごめんね、お母さん……私じゃ恋人や友達すら連れてこられなくて……)
ずっと、舞に邪魔されてきた。
仄かに憧れた人や仲よくなりたい人ができても、いつの間にか舞に悟られて……憧れた人は舞に夢中になるし、仲よくなりたい人は舞に取り込まれて悪口を吹き込まれ……逆に遠ざかっていった。
「ね、頼むからいなくなってくれない?ほら」
舞から玄関へ放り投げられたのは、小さなポチ袋。おそるおそる拾ってみれば、硬貨が入ってるとわかる重さ。
「見なよ、母さんの喜ぶ顔。姉さんじゃこうもいかないでしょ?あんた、この場に自分が相応しいと思う?厚かましいったら!……あのね、頭悪いからハッキリと言ったげる。目障りなの。邪魔なの。そのジュース代あげるからファミレスでもいったら?いつまでも子どもなあんたにはお似合いよ」
クスクス、と笑う舞の意地悪そうな顔に耐えきれず、「買い忘れあったからスーパーいってくる」と、その場で逃げ出したんだ。
樹は、庇ってくれもしない。
寒空の下で、私はひとり。
四つ葉のクローバーのストラップを握りしめ、声を殺しながらこぼれる熱い滴を落とした。