双生モラトリアム




行きつけの産婦人科では、いつもの年配の女医さんが居るとばかり思ってた。

けれど診察室にいたのは、たぶん30そこそこの若い……しかも、男性医師。それだけでも嫌だったのに。見知らぬ男性からいきなり名前を呼ばれるなんて……


(嫌だ……気持ち悪い!)

嫌悪感から、ざわざわと背中が粟立つ。
いくら整った顔だちで爽やかそうな青年でも、今は関係ない。
初対面で馴れ馴れしく名前を呼ばれるのは好きじゃない。まして、こんなプライバシーに触れるデリケートな場所で。

(もしかしたら診察室間違えた?)

確か、第一診察室と言われたはずだけど、間違って隣に入ったのかもしれない。名前を呼ばれたのも、間違いで……そう思おうと踵を返した私は、看護師さんから呼び止められた。

「春日さん、こちらの椅子にかけてください。お荷物はこの篭に」
「……はい」

やっぱり、私が呼ばれたんだ……。嫌な気持ちになりながらも、ピルが必要だからと自分に言い聞かせて重い足を動かす。

(きっと、カルテを見て名前を知ったんだ。うん、そうだよ。だって私は知らないもの)

コートを脱いでカバンとともに篭に入れ、渋々椅子に座った。男性医師は小さく咳払いをして、うん、と一人頷く。

「あ~……失礼しました。知り合いに似ていたもので。いつもの柿崎先生はちょっと体調をくずされていて、臨時で僕が入ってます。立花
颯(たちばな・そら)と言います。おそらく今回のみでしょうが、よろしくお願いします」

めがねをくいっと上げた立花先生は、照れたように笑って間違いを謝罪してくれた。
そんなに悪い人じゃないかも……と、思えたのは良かった。
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