双生モラトリアム


「あ、それからですね」

立花先生が近くの看護師さんに指示を出し、それに頷いた看護師さんから移動を促された。

「では、春日さん。そこのベッドへ腰かけてください」
「あ、はい」

なんだろう?と疑問に思ったけど、看護師さんの指示に従って診察室のベッドに座る。すると立花先生が椅子から立ちあがり、私の目の前に膝を着いて「失礼します、ちょっと触りますね」と断ってから左側の足にそっと触れてきた。

「痛っ……!」
「うん、やっぱりここ腫れてるっぽい」

手探りで優しく触れられても、まだ何時間しか経ってない怪我だ。ろくな処置をしてないから、痛みは引いてない。

「ごめんね、歩き方がおかしかったから……僕は整形外科は専門(とくい)ではないけど、見過ごせなかったんだ」

レントゲン撮らせてね、とレントゲン室に突っ込まれ、あれよあれよと撮影が終わり、もとの診察室。

「うん、骨に異常はないね。ただ、念のためしばらく湿布とサポーターを併用して。まあ、うちには置いてないから、調剤薬局で買えるよう処方箋に書いておくよ。あと、処置室で治療受けていってくださいね」

にっこり、と笑う立花先生は「これは、僕の勝手な診療行為で、点数には入れないから。安心してね」とのたまったけど。

「痛みが引かないうちに、また専門の整形外科に診てもらってくださいね。……自分を守れるのは自分だけなんですから。痛みがあるなら放置せず、ちゃんと自分の体を大切にして労ってあげてください」

なぜこんなケガをしたのか、を一切訊かない立花先生の優しい言葉が嬉しくて……不意に泣きそうになり、急いで立ちあがり「ありがとうございました」と頭を下げ、処置室へ向かった。

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