双生モラトリアム

お母さん以外の誰かが気にかけてくれるなんて、久しぶりだった。
職場でも嫌われているのはわかってたし、友達もいないから。いつもいつも、なにかあったら自分の中で処理して飲み込むしかなかった。

このケガだって……自分の不注意だから、と我慢すればいずれ治ると思ってて……。家に帰って湿布を貼ればいいと。

処置室ではあちこち手当てを受けて、顔の擦り傷にも大きなガーゼを貼られて……左手のひらから手首には包帯をぐるぐる巻き。なんか大ごとだ。

でも……なんか、こそばゆい。

包帯したのは中学生以来かな。

確か、あの時は舞に踊り場から押されて……階段から落ちたんだ。

“姉さん、いなくなってくれない?”って。薄笑いを浮かべて。肩を押されて……。

あの時も、誰も助けてくれなくて……動けるようになった時。泣きながら自転車を押して帰ったんだ……。
お母さんがびっくりして、慌てて近所の診療所に連れていってくれて。よぼよぼのおじいちゃん先生は、大したことないって……湿布をくれたんだ。

だけど、と思う。

階段落ちる前に、確かに見た……気がする。

舞は、笑ってた。
笑っていたけど……。

でも。

涙を、流してた。

どうして、泣いてたのか?……は私には訊けない。舞を前にすると、私は萎縮してなにも言えなくなってしまう。

バカな私が何を言ったって、頭のいい舞には論破されるし周りも舞を信用するから。舞が嘘を言っても、私の本当の言葉よりも遥かに信用される……これが現実だから。私はなにも言えなくなっていったんだ。

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