双生モラトリアム
「……なんの用事で?」
「ぴ、ピルを貰いに……樹、最初に言ったでしょ……絶対飲めって……」
「ああ……」
樹は、なぜか髪をぐしゃりとかき上げた。イラついた時の癖だ。
なぜ、樹の機嫌が悪くなるの?私は樹に言われた通りにしてるだけなのに……。
「それより……私は大丈夫だから。樹はもう帰って。舞がいつ来るかわからないし……」
「…………」
当たり前のことなのに……私がそう言った途端に、樹の機嫌が一気に下がったのはわかった。
「……そんなに、オレが邪魔か」
「そんなこと……」
ない、と言いかけたけど。樹はハンドルに寄りかかるようにして、クククッと笑う。
「……そうだよな、唯はいつもいつも……変わらない。変わろうとさえしないもんな……」
「樹……?」
「……本当に……なにも、見ようともしない……」
何を言ってるの?
樹の言ってる意味が、全く理解できない。
「……唯は、勝手だ。なら、オレも勝手にさせてもらう」
そう言った樹は、車のエンジンをかけて車を発進させた。
「樹!」
私が抗議しても、樹は聞く耳を持たない。
だけど、まさか。アパートの敷地を出る時に……なんの偶然か、傘をさした立花先生と目が合って。彼の驚いた顔が、どうしてか妙に印象に残った。
樹が私を連れ込んだ先は……いつも使ってるホテルで。
「……なんで?今日は……」
「雨も降った」
よくわからない理屈で部屋に連れ込まれて……
その日は、いつもより激しかった気がした。
結局、妹の婚約者を寝とる罪悪感なんてすぐ塗り潰される。
妹の……舞への歪んだ優越感で。
“今晩、樹は私といるのよ”と。
私も、所詮舞と同じ穴の狢。
私は、舞が……大嫌いなんだから。