双生モラトリアム
獣医になる、なんて。現実には無理だった。中学はどんなに勉強しても上位には届かなかったし、入れた高校では家族の生活を支えるためにアルバイトに明け暮れた。
対する妹の舞は勉強やイベントや生徒会活動などで青春を謳歌してた。私は公立のレベルが低めの学校だったけど、舞は県内でも指折りの進学校で成績はトップクラス。
私が進路を決める時に、ハッキリとお母さんに言われた。
“うちは二人も進学させる余裕はないの。舞は無返済の奨学金も受けられるって言うし……唯、悪いけどあなたが貯めた進学資金、舞に出してあげてくれない?
それに、あなただって妹が東京の旧帝大に行けるのは自慢でしょ? ”
せめて自分で専門学校に行こう……って内緒で貯めていた進学資金は、なぜかお母さんにバレてて……舞の進学とひとり暮しの費用に使われた。
高校卒業した私は就職してがむしゃらに働き、時にアルバイトも掛け持ちして生活費と大学の費用を捻出した。妹と、家族のためって言い聞かせながら……。
……でも。
本当は、進学したかったな。
獣医にはなれなくても、近くにある動物の専門学校に通って……動物の看護士さんになりたかった。
(こんなにドジだと無理だけど……)
重だるい体を引きずって、アパートのドアの前に立つ。灯りが点いてるから、お母さんは帰ってきてるはず。
(舞が……いないといいけど)
ついさっきまで、私は樹と居た。
彼は、事後のシャワーを決して許してくれない。メントールの匂いを纏ったまま、家に帰るしかないんだ。
ドキドキと嫌な鼓動を感じながら、玄関のカギを開けた。