双生モラトリアム
私がドアを開けた瞬間、楽しそうな笑い声が止んだ。
遠くからでも、テーブルには結婚に関する雑誌やパンフレットが並んでいるのが見える。きっと、まだ相談してたんだろう。
舞とお母さんは、心底楽しそうに笑ってた。
まるで、二人だけが本当の家族で私は赤の他人……異物みたいだ。
「お、お帰り。唯……ごはんは?」
「もう食べた」
慌ててお母さんがテーブルの上にある資料を揃えて避ける。私も見ないふりをして、「お風呂沸かすね」と、お風呂場に向かった。
真冬とはいえ、少し前に沸かしたからぬるいはず。ガス釜だから20分ほど沸かせば十分だろう。そう判断した私は、二人の横を通ってタンスを開ける。取り込んでおいた洗濯物をたたみながらしまっていると、台所に立った舞がにっこり笑ってお母さんに言った。
「ねえ、母さん。寒いでしょ?お茶でも飲まない?」
「あ、ええ……そうねえ。今夜は冷えるからね」
水を入れたやかんをガスコンロの火にかけた舞は、やたら上機嫌だ。無視はされてるけど……もしかしたら、結婚が決まったお陰で舞から今日はなにも言われないのかもしれない。と、私は密かに期待をして、目立たないよう黙々と家事をこなしていた。
だけど。
「……熱っ!」
舞に蹴られた後で湯呑みが飛んで来て、頭から淹れたてのお茶を被った。
「あら~姉さん、いたの?ごめぇん、障害物にしか見えなかったから転びかけちゃって。かかっちゃったかしら?」
クスクス……と愉快そうに笑う舞に、私はなにも言えなくて。ただ割れた湯呑みの欠片を黙々と拾い集めた。