双生モラトリアム
お汁粉と熱燗を飲む静かな時間だけが過ぎていった。
それだけで、何だか満たされる。
私の身を案じてくれる人がいるだけで、こんなに嬉しいなんて。
赤の他人でさえそうなんだから、本当の家族なら一層嬉しいものだろうな。
(やっぱり……舞とお母さんに……私は邪魔だ……お金を貯めて出ていかなきゃ)
本当の家族に戻してあげないと。
あと……樹とも。もう終わらせないと……。
「……あの男性」
「えっ?」
突然立花先生が話しかけてくるから、考え事をしていた私は反応が遅れて慌てて聞き返した。
「あの……なにかおっしゃいました?」
「ええ」
一拍おいてから、立花先生は改めて訊いてきた。
「今日、若い男性と車に乗ってらっしゃいましたよね?カレシさんですか?」
「え……」
問われて、そう言えば樹の車に乗った時に立花先生と偶然目が合ったことを思い出した。
「い、いえ!あれは……恋人とかでは……い、妹の婚約者です」
別に疚しい関係でないと主張したかったのに、盛大に墓穴を掘る羽目になった。
「……あんな遅くに、妹さんの婚約者と二人きりで出掛けたんですか?」
「……あ」
不味い発言をしたと気づいても、あとの祭り。どうにか誤魔化そうと口を開いても、バカな私には咄嗟に上手い言い訳ができない。
「あの……」
「……別に、いいんですけど。ピルは、やはり避妊のためなんですね?」
何だか見透かされたようで、心臓が嫌な音を立てた。