双生モラトリアム
息苦しさ
「こほっ……」
(38.6℃……やっぱり熱、出ちゃった)
夜中にダメもとでベランダの引き戸に触ったら、鍵が開いてたからそっと家に戻った。きっとお母さんがこっそり開けてくれたんだろうな。
それからはお風呂場に隠れていた。舞はここのカビだらけの壁を嫌ってるから、決してここでお風呂は入らない。
今日は樹とブライダルサロンに行く、と上機嫌で話してた。抜け出したことを悟られないかヒヤヒヤしたけど。どうやら今日は急ぐようで、慌ただしく出ていったので助かった。
とはいえ、お風呂場もかなり冷えこんでいたから。寒気がしたのは気のせいじゃない。
「唯、ごめんね……」
「ううん、いい。舞が私を憎むのは仕方ないよ……お母さんが私を嫌うのも」
熱で、頭がぼんやりしていたせいかもしれない。いつもなら決して言わなかった言葉が、口をついて出たのは。
お母さんが、ハッとした顔をする。傷ついた表情を見て、いたたまれなくなって玄関に出た。
ムカムカする……。
何だかイヤに苛つきながら乱暴にスニーカーを履いていると、お母さんに声をかけられた。
「唯、どこ行くの?」
「仕事。今日は日曜日で穴を開けるわけにはいかないし」
「そんな……熱があるじゃない。休んでも……」
「……私が働かなきゃ、どうやって食べるのよ!」
怒鳴りつけるように声を張り上げて、お母さんを見ずにドアを閉めた。いつもより音が響いてしまったけど、どうでもいい!となげやりな気持ちでドアに背を向けて歩き出す……と。
隣のドアが開いて、ひょっこりと立花先生が顔を出した。