双生モラトリアム

「おはようございます」
「お、おはよう……ございます」

突然のことで反射的に頭を下げると、立花先生はなぜかドアから出てきて私の首に手を当てる。

「冷たっ……」
「あ、ごめんね。でも、やっぱり熱がある……こっち来て」
「えっ」

立花先生は私の手を掴むと、自分の部屋にあれよあれよという間に連れ込んだ。先生の家は暖房が効いてて暖かい。

「はい、口を開いて。舌を出して」
なんて手慣れた様子でテキパキ診られて、思わず素直に従ってしまった。

「やっぱり、かなり咽が腫れてるし熱も高い……僕の見たてでは急性咽頭炎ってとこかな」
「……はあ」

立花先生は私を診て何がしたいんだろう?まったくちんぷんかんぷんで、大人しく様子を見ていると。彼は急に布団を敷き出した。

「今から眠るんですか?なら……私は出ますね。お邪魔しました」
「うん、眠るのは春日さんがね」
「え?」

すっかり用意を整えた立花先生は、にっこり笑ってポンポンと布団を叩いた。

「春日さんの主治医として、治療を優先します。仕事はお休み。少なくとも今日はここでずっと休むこと」
「……え、それはできません!」
「なぜ?」

無邪気な顔でそう返された……え、大丈夫なのこの人?と言いたくなる。一般的な常識があれば、ダメという理由はいくつでも思い当たるのに。

「わ、私は稼ぐため仕事を……それに、人がいないんですよ」
「却下。有給使えばいいし、スーパーなら一人抜けてもどうにかなるよ」
「それに、あなたと私は他人で……」
「僕は医者で君は患者。はい、次」

次って……
なんかムカムカきて、意地でも出ていってやると奮い立った。
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