双生モラトリアム
これは言いたくなかったけど、仕方ない。
自惚れとかでなく、あくまで一般論としての主張をした。
「わ、私は女で……立花先生は男性です。大人の男女が一つ屋根の下は……」
なのになぜか先生のツボに入ったみたいで、必死に笑いを堪えてた。
「ひ、一つ屋根の下って……春日さん……めっちゃ面白い……」
「ひ、ひどい……!わ、私も他に上手い言い方がわからなかったんです!」
「ご、ごめん……ぷぷぷっ」
……完全にウケまくってますよね、立花先生。
「……ごほん。と、とにかく。医者としては高熱時に仕事に出るのは推奨できない。ただの風邪と侮ると、他の細菌性の病気やウィルス感染症の可能性を見落とし、知らず知らず他者に感染させてしまうかもしれない。インフルエンザだとしたら?1週間は出てくるなと言われるはずだよ」
「……はい」
確かに、立花先生の言う通りだ。
「でも、それならなおさら家に帰ります」
「却下。お母さんは体が弱いって言ってただろう?感染症なら移す危険性がある。だから、君
をここに隔離するんだ」
隔離って……なんか私自身が病原菌みたいな扱いでムカッときたけど。昨日の雑談で軽く話しただけなのに、色々よく覚えてるなと思う。
(あれ……?でも、私……勤務先がスーパーって話してたっけ?あと、お母さんのこと話してた??)
「今日、僕は医者のバイトで午前中は緊急外来を見なきゃいけないけど。帰ってきたら薬も飲ませるから」
「は……はい」
何だかんだと布団に横にさせられ、水分補給にとスポーツ飲料を置いていった。
(なんかおかしい……なんでこうなるの?)
立花先生が出ていったら家に戻ろう、と思案していると「はい」と渡されたのはスマホ。
「僕、2台持ちしてるから。一時間毎にここで寝てるって証明に、自撮りして僕のケータイに写メしてね」
立花先生はしっかり念押ししてから、出ていった。