双生モラトリアム



(なんか……変なことになっちゃったな……)

立花先生から借りた携帯電話で、職場には休みの連絡をしておいた。電話には店長が出てくれて、“わかったわ。インフルだといけないから1週間有給にしておくわね。お大事に”って言ってくれて助かった。

じっとしていると何だか退屈で、布団を頭から被ったままベランダ際に歩いていく。カーテンをわずかに開けると、よく晴れた澄みきった空が見えた。降り積もった雪も朝には止んで、うっすらと銀世界が広がってる。
スズメが数羽、チュンチュン鳴きながら敷地の駐車場でなにかを啄んでた。

(静かだな……)

こんなにゆっくり休むなんて、何年ぶりだろう。

思えば……小学校から家ではゆっくりできなかったっけ。

“唯、お母さんの言うことはしっかり聞くんだよ”

滅多に家に居なかったお父さんは、ずいぶんお母さんと舞に気を使ってた……。

“お母さんは唯を育ててくれているんだから、感謝して大切にしてあげなさい。舞も唯の妹なんだから、お姉ちゃんとして優しくしてあげるんだよ”

幼稚園の時から、お父さんは常々私にそう言い聞かせてきた。舞のわがままは何でも聴いてあげて……私がほしいものややりたいこと、いきたい場所があっても“お姉ちゃんなんだから我慢しなさい”……って。唯の希望が最優先されたっけ。

だから、かな。
舞は年長組になった時くらいから、すごくわがままで私を見下すようになってきたのは。

おてつだいは全て私。その流れで小学校に上がる頃から、家事を担うようになって。中学には家事のほとんどを私がするのが当たり前になってた。

だから、なかなか成績が上がらず高校も公立の補欠募集でなんとか滑り込めたんだ。


< 34 / 88 >

この作品をシェア

pagetop