双生モラトリアム


「あ、起きた?」

(男の人の声……?)

誰? と一瞬頭が混乱したけど。ひょこっと覗きこんできた顔を確認して、安心した。

「立花先生……」
「うん」

にっこり笑った立花先生が「口開けて」と言うから、 言われた通りにすればひんやり冷たく固い感触。
しばらくして電子音が鳴り、口から抜いた先生は眉間にシワを寄せた。

「38.7℃か……朝より上がってるっぽいね」
「すみません……ご迷惑をおかけしまして」

申し訳なくて謝ると、「ん?」と不思議そうな顔をされた。

「別に、迷惑じゃないよ。僕が勝手にやってる、いわば自己満足だからさ」

(そう言えば……立花先生、敬語が抜けてる)

台所でガチャガチャやってた立花先生は、障子越しに顔を出して「なにか食べられそう?」と訊いてくれたけど。さすがにそこまでお世話になるわけにはいかない。

「あ……自分で作ります」

自分で立ちあがろうとした途端、くらっと立ち眩みがしてすぐにしゃがんでしまった。

「ほら、じっとしてなって。こういう時くらい、君は甘えるべきだよ」
「……すみません」
「だから、謝らなくていいよ!それより、色々持ってきたけど。なにか腹に入れて薬を飲まないと」

立花先生がトレーに載せてきたのは、レトルトのおかゆ、ゼリー飲料、プリンやヨーグルトのデザート系、カットしてある果物、チョコレート、ブロック型の栄養補助食品、あとはスナック菓子。

「アイスもあるから言ってくれれば出すから」

あまりにもご馳走過ぎて、何だか笑いがこみ上げてきた。

「……ん?なにかおかしい??」
「ううん……だって……私が子どものころ、食べたかったご馳走ばかりだもの。夢みたいで……」

私がそう言うと、どうしてか立花先生は嬉しそうに笑った。
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