双生モラトリアム
1週間経つ頃には流石に熱も下がり、微熱程度で普通に行動できるようになってた。
「立花先生、ありがとうございました。お陰ですっかりよくなりました」
「ううん、僕こそ。毎日張りができて楽しかったよ」
立花先生はまったく面倒くさがらず、何から何までお世話をしてくれた。とはいえ、さすがにトイレや着替えは自分でやったけど。
最初の2日辺りは熱が高すぎて何があったかわからなかったし、熱が下がったら下がったで喉や咳など色々辛くて寝込んでた。
インフルエンザの検査では陰性だったし、明日には家に戻ってもよさそうと言われてホッとしたのか残念なのか……何だか複雑な気持ち。
そう言えば……お母さんには立花先生から連絡をしてくれたって言ってたっけ。
「あの……連絡もありがとうございました。母にはなんて……?」
「ん?」
私がリハビリに、と作った鮭雑炊を口にした立花先生はううむ……と唸る。
「あ~……あの、勝手な言い分だけど……一番納得できそうな理由を言っておいた」
ガリガリ、と頭を掻くから思わず「先生、汚いですよ」と注意をしたら、あ……と気づいたようで、慌てて手を洗いに台所へ走った。
(納得できそうな理由……なんだろ?)
立花先生はずいぶん乱暴に手を洗ってるようで、ジャバジャバと水音がこちらまで聞こえる。
「あー……とりあえず……僕は、春日さんの恋人って言っておいたよ……」
「!!」
思わず、雑炊を吹き出しそうになった。片手で口を押さえてなんとか惨事は免れたけど……でも。
「こ……恋人……ですか?」
「一番説得力がある設定だったからね……でも」
立花先生は台所から、聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声でこう告げてきた。
「……春日さんが……これからもここで一緒に住んでくれたら……僕は嬉しいんだけど」