双生モラトリアム
「い……樹、お願い……止めてッ……ん」
今までにない熱のなかで必死に言葉を紡いでも
、すぐにキスで塞がれる。何も聞きたくない、とでも言うように。
それに、誰が通るかわからない……ましてやお母さんが帰って来るかもしれないのに。
こんなにも、性急な樹は初めてだった。
私が一人の時にアパートには決して来なかったし、関係を持つのも絶対決まったホテルで。なのに……どうして!
私が誰とどんな関係になろうと、樹には関係ないし無関心だったクセに。
焦がされそうなほど樹に強引に抱かれて、何度目かで気を失ったと思う。
次に目が覚めた私がいたのは見慣れたアパートではなく、カタログに出そうなモノトーンのオシャレなベッドルームだった。
(ここ……どこ?どうして、こんな場所に……)
まったく見知らぬ光景に、怖くなって体がガタガタ震える。だけど、ふと嗅ぎなれた匂いがして不思議と落ち着いた。
「これ……メントールだ……樹のタバコと同じ匂い……」
大きなベッドのサイドテーブルには陶器の灰皿があり、ジッポーとメントールのタバコを見つけた。
「……樹……の家?」
(まさか……でも……それならどうして?)
混乱しながら上半身を起こすと、自分が裸ということに気づいて、慌てて首まで布団を引き上げた。
「……裸、どうして?」
「唯」
樹の声が聞こえて、ビクッと体が震える。
「い、樹……わ……私……帰らなきゃ」
「…………」
私が見上げると、バスローブ姿の樹は黙ったまま、手にしていたグラスの中身を飲み干す。
そして、私の顎を掴むと強引に唇を重ねてきた。
「……っ」
喉を、焼くような刺激が通りすぎ全身に染みていく。
強いアルコールで頭がくらくらする私の耳元で、樹が低く低く囁いた。
「……アイツには渡さない。唯、おまえを一生縛ってやるよ」