双生モラトリアム

いっくん

「四つ葉のクローバーって、お守りになるんだって」

小学３年生の春だった。
“いっくん”とそう会話したのは。
まだ、お父さんは健在で。家族としての形は整っていた頃だと思う。

クラスメートから“四つ葉のクローバーは幸せのシンボル”と聞いて、放課後の公園で二人で探したっけ。

３つ上のいっくんはもう６年生で３つも下のお子様を相手するのは嫌だろうに。そんな素振りをまったく見せることなく、面倒がらずに一緒に遊んでくれた。

けど。四つ葉のクローバーはなかなか見つからない。団地の中の狭い公園だから仕方なかったけれども。私は意地になって放課後毎日毎日探した。

だけど、その頃からいっくんはちょくちょく来なくなった。たまに来ても週一とかで……それでも、私は毎日毎日夕方に公園に行った。

そして、夏になる手前の５月。久しぶりに会えたいっくんにこう言われた。

「ゆーちゃん、僕……引っ越さなきゃいけなくなったんだ」
「えっ……」
「……学校も……転校になる……」
「……なんで！？イヤだよ！いっくん……いかないでよ！！」

まだ、素直に感情を出せた頃。

私は突然の別れに、わがままを言ってわんわん泣いた。

「そんなこと言わないで……僕もほんとはイヤだよ……」

ごしごしと涙を手のひらで拭ったいっくんは、私の手のひらになにかを握らせた。
それは、四つ葉のクローバーのストラップ。

「見つけたクローバーを、ストラップにしてもらったんだ。ゆーちゃんが幸せになれるようにって……それから、また会えますようにって……ずっと持って……待っててくれる？必ず迎えに来るから」
「うん！約束だよ。唯、いっくんを待ってるから……絶対、絶対迎えに来てね！」

幼い子どもたちの、よくある他愛ない約束ごとだったけれども。私の大切な生きる支えだった。