双生モラトリアム

急いで連絡しないと! と、焦って電話を探したけど。やっぱり見つからなかった。

(どうしよう……いくら店長でももう許してくれないよね……)

あのスーパーをクビになったら、すぐ次が見つかる保証はない。仕事を選ばなければ見つかるだろうけど、私みたいに要領が悪くて不器用でドジな人間。とうてい新しい場所でやっていける自信がない。

(どうしよう……とにかく……樹と話さなきゃ。こんなの意味が無いってわからせないと)

落ち着くためにシャワーを借りて暖まり、体を洗ってすっきりした。

あとは、腹ごしらえ……とキッチンにいくと、ずいぶん立派な設えのシステムキッチンで驚いた。どう見てもファミリー向けの設計で、キャビネット式のビルトインコンロやオーブンに食洗機、レストラン並みの換気扇まである。

(もしかして……舞と暮らすために買ったマンション!?)

冷蔵庫もずいぶん立派な5ドアのミラーパネル式。中身を見ると、外観にはそぐわない寂しい内容。アルコールとおつまみ程度だ。

(他には……なにか)

棚や引き出しを漁ると、最低限の調味料と乾燥食材が見つかった。自分が食べられそうなものを……と考えて、缶詰めと乾燥パスタを使うことにする。





< 46 / 88 >

この作品をシェア

pagetop