双生モラトリアム
急いで連絡しないと! と、焦って電話を探したけど。やっぱり見つからなかった。
(どうしよう……いくら店長でももう許してくれないよね……)
あのスーパーをクビになったら、すぐ次が見つかる保証はない。仕事を選ばなければ見つかるだろうけど、私みたいに要領が悪くて不器用でドジな人間。とうてい新しい場所でやっていける自信がない。
(どうしよう……とにかく……樹と話さなきゃ。こんなの意味が無いってわからせないと)
落ち着くためにシャワーを借りて暖まり、体を洗ってすっきりした。
あとは、腹ごしらえ……とキッチンにいくと、ずいぶん立派な設えのシステムキッチンで驚いた。どう見てもファミリー向けの設計で、キャビネット式のビルトインコンロやオーブンに食洗機、レストラン並みの換気扇まである。
(もしかして……舞と暮らすために買ったマンション!?)
冷蔵庫もずいぶん立派な5ドアのミラーパネル式。中身を見ると、外観にはそぐわない寂しい内容。アルコールとおつまみ程度だ。
(他には……なにか)
棚や引き出しを漁ると、最低限の調味料と乾燥食材が見つかった。自分が食べられそうなものを……と考えて、缶詰めと乾燥パスタを使うことにする。