双生モラトリアム
「……唯」
樹に呼ばれて、ハッと我に返った。
いつの間にか料理に夢中になって、樹の帰宅にも気づかなかった。
「……お、おかえりなさい……」
ひどいことをしてくる相手だけど、とっさに思いついたのがその言葉。お父さんには“挨拶とお礼と謝罪はしっかりしなさい”と散々言われてたから。反射的にそう言っただけなのに。
樹は私に歩み寄ると、なぜかぎゅっと抱きしめてきた。
「……ただいま、唯」
そう耳もとで囁かれて、吐息がこそばゆくて身じろぎすると。さらに腕に力が込められた。
「い、樹……苦し……」
「……すまない……だが……唯、離したくない」
ごく自然に顔を上向かされ、キスをされた。
そのままキッチンのシンクに背中を押し付けられ、体を覆っていたシーツを解かれてしまう。
これ以上駄目だ、と私は咄嗟に樹の手を掴んだ。
「樹、だめ……!だって、ここは……ま、舞と暮らすためのマンションでしょう!?なら、私は……っ」
また、唇を塞がれ深いキスが続く。体が震えるほどに散々弄ばれた後に、樹はぽつりと呟いた。
「……違う」
「……?」
「ここは、舞は関係ない」
樹が何を言おうとしているのか、全然わからないよ。結婚する舞じゃなければ誰と? と熱でぼんやりした頭に、樹の信じがたい言葉が入ってきた。
「唯……おまえとオレとのマンションだ。唯……おまえのいるべきる場所だ」
「え……」
到底信じられない言葉だった。
樹が、こんな高級マンションを私のために用意した?
幼馴染とはいえ、今はセフレに過ぎない私に??