双生モラトリアム
力が入らない両手で懸命に樹の体を押し、何とか離れようともがいた。
「やっぱり……だめだよ! 樹は舞と結婚するんでしょう!? なら、私となんてさっさと縁を切るべきだよ。私は、樹にとってただのセフレ……舞の身代わりで、性欲を解消するだけの存在でしかない……。そうでしょ?
それに、仮にも姉の私と婚約者のあなたがこれ以上舞を裏切っちゃダメだよ」
一生懸命、樹を説得しようと試みた。バカなことをしないで、という思いを込めて。
「ね、樹……こんなバカなこと、止めよう」
「…………」
樹は、秋になれば舞と結婚する。私もその頃には家を出て独り立ちしなくては。
本当の“家族”じゃなかったのに、自分のわがままで今まで家族面してきたんだから……。
樹とも、完全に縁を切らなきゃならない。
こんな爛れた関係をすっぱり断ち切って、私が樹と関係してたと本当に舞に知られないように。
「樹、お願い……あなたは勘違いしてるだけだよ。私が舞とほとんど同じ遺伝子を持ってるから、その代わりにと抱いてきて……少しは執着するかもしれない。でもね、私は所詮舞の身代わりにもならない代用品にすらならない欠陥品……そんなのを所有物と勘違いしちゃダメ。
もう、舞だけにして。私も……下らない意地とつまらない自尊心で……樹に従ってきたけど……もう、解放するから。樹、私から自由になってよ……」
もう、洗いざらいぶちまけた。
どうにかして樹を説得したくて。自分の恥も外聞もなく、必死に彼へ訴える。
「……舞への、醜い嫉妬や優越感……あなたを独り占めできるって暗い悦び……そんなのは、もう要らない。お願いだから、私から離れて……」