双生モラトリアム


(バカみたい……!)

顔をふり、鏡の裏にある棚を開けると出てきたのは錠剤のシート。順番が記されたシートの指定された錠剤をとり出し、水道水で流し込む。

それだけで、ホッとした。

シートの錠剤はあと3週間ぶんあるけれど……。シートが1つだけだと、何だか不安になる。


(また……産婦人科にいって次をもらわなきゃ)

避妊目的の低用量ピルの服用は、樹の命令だった。

彼が、私との子どもを望むはずがない。
婚約者の舞が居ないとしても、大企業の次期社長になる彼に……私は相応しくないし。第一、彼が私を好きになったりはしない。

所詮……身体だけだ。

舞は身体を許さない、と樹は言ってた。だから、せめて姉である私を代用品にして解消してるだけだろう。

でも、それでも、いい。

私の唯一恋した人だから、求めるなら許してしまう。

(この時間だけは独占できるなんて……醜い優越感を持ってる。裏切り者のくせに……最低だ、私は)

私が、樹と過ごせる唯一の時間。それだけは失いたくない……!!


(舞なら、ずっとずっと一緒……将来も一緒にいられるんだもの……どうせ束の間の時間なんだもの………)

樹が、飽きたら終わり。最初にそう告げられていたし。最近は雨の日でも秘密の待合せ場所に来ない場合が増えた。

きっと、終わりは近い。

だから、私は覚悟を決めようと必死に自分に言い聞かせてた。

(大丈夫……樹がいなくても私は生きていける……)
と。



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