双生モラトリアム
「ダメだよ、君の退院は許可できない」
翌日。一番に診にきた立花先生に相談してみたけど、退院希望はにべもなく拒否された。
「どうしてですか?私は赤の他人なのに……これ以上お世話になるわけにはいきません!
こ、婚約者って立場だって……私が入院する都合上、あえてそうしただけなのでしょう?
立花先生にはお世話になりっぱなしなのに……これ以上は心苦しいですし、恩返ししきれません!」
私が必死に訴えても、立花先生は困ったように眉を寄せるだけ。
しばらくして「悪いけど、少し席を外して」と言い、看護師さんを個室から出した。
「少し座らせてもらうよ」と、立花先生はひと言断り、ベッドそばの椅子に腰を下ろした。
「……言うつもりはなかったけど……やっぱりきちんと伝えておかないといけないみたいだね」
「何をでしょう?」
なんとなく、解っていたような気がする。立花先生が言いたいことは。
でも、違うと心のどこかで否定したがっていた。
だって……私は。
「“ゆーちゃん”」
立花先生が、懐かしい声音で私を呼ぶのに。“違う!”と否定したくなる。
だって……
「……僕が、“いっくん”と名乗った子どもだった。樹……僕の兄がそう名乗れと言ったから」
“いっくん”と名乗ったから、再会した樹を好きになったのだからーー。