双生モラトリアム
信じられない真実を前に、頭が真っ白になった。
「樹が……立花先生のお兄さん……?」
「ああ……二卵性の双子の兄は昔から体が弱くて、しょっちゅう入院してた。風邪も引かない丈夫な僕を羨んで、僕に“ごっこ遊びをしよう”と提案してきた。樹が僕の名前で暮らして、僕が樹の名前で暮らす……もちろん、学校でもね。だから、病弱は僕の方って誤解されてはいたけどね。
そんななかで、団地の公園で唯……君に出逢ったんだ」
立花先生が頭を掻いてる……そう、このクセだ。照れたりした時、誤魔化すために頭を掻くクセ。
そして立花先生が白衣のポケットから取り出したのは、家のカギについてたストラップ。
小学生でお別れした時、いっくんがプレゼントしてくれた四つ葉のクローバーのストラップだった。
「唯、ずっとずっと大切に持っていてくれたんだね。あの約束を、まだ信じていいのかな?」
“きっと迎えに来る”と誓った、幼すぎる約束。
今、偶然が重なったとはいえ“いっくん”……立花先生が目の前にいる。
懐かしさから、涙がこぼれそうになるけど。私は必死に首を横に振った。
「先生みたいに立派なひとが、幼い約束を真に受けて私みたいな欠陥品を……先生なら、もっともっと素敵なひとを愛してあげてください!私といたら……きっと不幸になってしまいます。だって……私は誰にとっても不要な疫病神だから……」
ギュッ、と両手の拳を膝の上で握りしめた。
「なぜ?」
立花先生は、意外な返し方をしてきた。
「誰が、そんなこと決めたの?誰が君をそんなふうに評価したのかな?」
「えっ……だ、だって……お父さんとお母さんは事故に遭ったし……舞は病気がちだったし……いっくんだって引っ越しをしなきゃいけなかったし」
あらゆる点を挙げてみたのに、立花先生にはフッと鼻で笑われた。