双生モラトリアム
「お母さん、おはよう。お昼はお弁当作っておいたから」
「ありがとうね、唯。今日は最高気温が3℃だって。コートとマフラー出しておいたよ」
「サンキュ。着てくね」
朝の情報番組をお母さんは楽しみにしてる。
私は占いとお天気コーナーが終わるころ、家を出るのが習慣になってた。
『今日はあいにく雲が多い1日でしょう。所によりにわか雨もしくは雪の可能性があります。折りたたみ傘があると安心です。しっかり防寒してお出掛けくださいね』
(……昨夜久しぶりに逢ったから……もし、雨が降っても今日はないだろうな)
雨の日に樹が来るのは、3回に1度程度の頻度になってる。
セフレになって6年目……そろそろ飽きてきたんだろう。
(今日は早く上がれそうだから……産婦人科に予約を取っておこうかな)
ピルの処方箋を3ヶ月ぶんまとめてもらうのがいつもだけど。樹とは春になる前に終わるかもしれない……なら、1ヶ月ぶんでいいのかも……。
(……本当は、ずっと終わって欲しくないくせに)
自虐的に笑いながら食器を洗っている時に、ちょうど占いのコーナーが始まる。
占いは、嫌いだ。
生年月日も血液型も一緒なのに、なぜ私と舞はこんなにも違うんだろう?
いいところは全て舞に集まり、私には残骸のような平凡以下の容姿や能力や運しか残ってない。
同じくらい努力しても、結果を出せるのは舞だけ。運動も勉強も芸術も作業も人間関係も……何もかも。
『今日はおとめ座が1位です!人生を変えるような思わぬ人と出逢えるでしょう。ラッキーカラーは青。ラッキーアイテムは四つ葉のクローバーです』
(嘘ばっかり……)
家の鍵についた四つ葉のストラップのキーホルダー。今までで唯一、樹がプレゼントしてくれた四つ葉のクローバーを閉じ込めたそれは、幼い頃の大切な思い出。大事なそれを握りしめながら、玄関の鍵をかけた。
(舞なら……きっと占いは本当になるんだろうな)