双生モラトリアム
はあはあ、と肩で息をする私を、立花先生はそっと抱きしめてくれた。「離して!」と抵抗する私の顎を掴み、突然キスをしてきた。
「……っ!」
抗おうとしても強い強い腕力で封じこめられたけど、彼のキスは次第に優しいものに変わっていくと同時に、とんとんと背中を緩やかに叩かれて気分が落ち着いていった。
「……唯、辛かっただろう?けど、もう大丈夫……君の産みのお母さんは……君を身ごもって……とても幸せそうだった、と聞いたよ」
「……う、嘘……そんなはず……」
私が必死に否定しようとしても、立花先生は穏やかな顔で言葉を紡いだ。
「君の、今のお母さん、冴(さえ)さんから聞いたよ……君の産みの親は咲(さき)さんと言って、冴さんのお姉さん……二人は双子の姉妹で、君のお父さん……賢(けん)さんとは幼なじみで、姉妹で賢さんに恋を……だが、結ばれたのは妹の冴さん。だが……賢さんと咲さんは、人知れず逢っていて……そして、唯。君を授かったそうだ」
立花先生が明かす衝撃的な事実に、私は思い出した。
お父さんとお母さんが事故に遭う前日の深夜、二人が激しく喧嘩をしていたところを。
“私があの子を……唯を、いつまで育てなきゃならないんですか!?私の子どもじゃないのに!!あの子のせいで、私の娘の舞が嫌な目に遭っているんですよ!そりゃ、あなたの娘かもしれませんけど。私の子どもは舞だけなんですからね!!”
涙を流しながら、そう叫んでいたお母さん……。
“ごめんなさい……お母さん”
“私がいるから……みんな嫌なんだ”
“でも、私……いいこにしてるから……なんでも我慢するから……家族でいさせて”
私が、自分の醜いエゴで家族でいると決めた時だった。