双生モラトリアム
「僕もね、兄が嫌いだよ。病気を理由に母さんを独り占めしてさ……家族は僕たち3人だけだったのに……兄が母さん取ったら、僕には誰もいない。小6の引っ越しもさ……兄のわがままのせいだった。本妻に子どもができなかったからって……東京に無理やり連れてかれて。どちらが後継者に相応しいかずっと試された。ああ、兄はすべてにおいて優れてたよ。双子の弟の僕はいつも2番目。終いには“樹のおまけ”なんて呼ばれてた……」
それだけじゃないけどね、と彼は口を歪めて笑う。
「母と義理の母は双子の姉妹だったからまあ……義母の嫉妬が凄かったな。出来のいい兄は可愛がられたけど、僕はその捌け口にされて……ひどい体罰は当たり前だったし、食事抜きもしょっちゅう。あと、色々こきつかってくれたんだ。その頃かな……笑うことを覚えたのは。反抗したり泣けばより酷くなると学んだよ。笑ってやり過ごせば多少マシになるからね」
はは、と虚しい乾いた笑い声を上げたけど、それは決して愉快なものじゃない。立花先生が吐露した、とてもとても痛い昔の傷……。
「今だって、兄は嫌いだし顔を合わせたくない。唯、ぼくも聖人君子じゃないんだよ。君が傷ついたように僕も傷ついてきた……心と体がある人間ならば、醜くて当たり前なんだ」
立花先生があえて自分の見せたくない部分を晒したのは、きっと誰もが同じと言いたかったんだろう。でも、私は……。
「それでもやっぱり……私は醜いよ!だって!!」
もう、これしかなかった。
頭の悪い私の、精一杯の手段。
私は入院のために着ていた服を一気に脱ぐ。唖然としている立花先生の前で、すべてをさらけ出した。
「こんな私でも、本当にほしいって言えるの?」
私の身体中に樹のつけた所有の痕跡……キスマークや噛まれた痕が無数にくっきりと残っていた。