双生モラトリアム
妊娠
半月ほど入院した後、ある程度回復した私は颯が購入したマンションに移った。
樹のことがある以上、アパートに戻るのは良くない、と颯の判断で。
「でも、どうやってあのマンションから私を出せたの?」
退院する時にずっと疑問に感じていたことを颯に訊ねたら、ああ、と彼は頭を掻いた。
「高校時代からの悪友で、刑事と弁護士になったやつらがいてね。まあ……うん、やつらに協力してもらったんだ」
「えっ……じゃあ、樹は逮捕されたの?」
まさか、と心配になって訊くと。颯はムッとした顔で訊き返してきた……わかりやすい。
「僕より、樹が気になるの?」
「そういうわけじゃ……一応、舞の婚約者だし……」
ふう、と彼は髪をかきあげた。
「いや、君が望まないなら何もさせない。だけど、1ヶ月監禁した上に毎日レイプまがいに抱いていたんだ。僕から言えば、それだけで十分犯罪だよ」
顔は見せてくれなかったけど、苦々しい声……きっと颯は今でも兄を怒っているんだ。
「ありがとう……」
私のために本気で心配し怒って……体当たりで頑なな心を解きほぐしてくれた。今は……今だけは、この人のそばにいたい。私のささやかな願いだった。
「いいよ、唯。荷物持つよ……最近、体調よくないだろ?」
「うん、ありがとう……」
颯の気遣いが嬉しい。
ここ何日か、やたら胸がムカつくしだるい気がする。お腹も張るしとも言えない微妙な発熱があるし……。
(胃腸風邪かな?しばらく様子を見よう……)