双生モラトリアム
颯が買ったのは、3LDKのごく普通の分譲マンション。それでもアパート暮らしには広く感じるけど。
「唯の部屋、好きに使って。そのうち同じ部屋の同じベッドで眠れるようになるといいけど」
「…………」
颯のあからさまな言葉に、いちいち心臓がドキドキしてしまう。彼のそばにいるのは一時的にと決めているのに……ダメだ、と自分に言い聞かせる。
(いけない……今だけは彼を頼るけど……まだ……私は……)
迷ってる。颯のそばにいたい気持ちと、離れたい気持ちと。常に振り子のように揺れて安定しない。
せめて、舞のように美人なら……と考えてしまい、ハッと我に返る。
(バカ……!舞たちから離れるって決めたのに。いつまで囚われているの。私は、私の人生を歩くんでしょ!)
自分を戒めるために軽く頬を叩くと、颯のポカーンとした顔が見えて。しまった!と体がフリーズした。
「眠気覚ましかな……?」
颯の瞳が何だか可哀想なものを見る目なのは気のせいじゃない。
(颯に見られた。あああ……恥ずかしい……!!)
内心ムンクの叫びと化していると、病院から持ってきた荷物のなかにあの四つ葉のクローバーのストラップを見つけた。
「颯……持ってきてくれたんだ」
私が大切にしているものと知って、わざわざアパートから持ち出してくれたんだろう。お母さんから話も聞いてくれて……。
樹がいつ私の前に現れるかわからないから、しばらくこのマンションに住めと言われた。確かに、今は樹と会いたくない。あんなことをされて許せるほど、私は人間が出来てない。
犯罪紛いに監禁してずっと抱き続けて……。
いくら好きだった人でも、限度を越えてる。
(好き“だった”……?)
自然に浮かんだ思考に、ドキッとした。