双生モラトリアム
「春日(かすが)さん、悪いけど買い出しに行ってくれない?そのままお昼取ってくれて構わないから」
「はい、わかりました」
店長に雑事を頼まれ、パソコン作業を終えるとメモ書きが手渡された。
私が働くのは本当に小さな会社で、個人商店が多少大きくなった程度のスーパーだ。
事務員として雇われたけど、実際は雑務もこなす何でも係。
家族経営だから社長にはお父さん、店長がお母さん、店員はほぼ子どもさんとその夫や妻……という感じ。
物覚えが悪く人見知りする私には、ちょうどいい環境だ。
(ええっと……コピー用紙とデータ用CDと……え、プチマッサージ機と電動歯ブラシの替えブラシ?)
これだと近所の事務用品を扱うお店では揃わない。少し足を伸ばして自転車で行ける家電店へいかないと……。
(仕方ない……休憩含めて2時間もらったし、行きますか)
制服がスーパーのもので良かった。下に穿くものは規程内なら自由だから、綿の厚手のパンツで自転車に乗れる。
一番近い家電店まではだいたい3kmくらい距離がある。ふだんあまり用事がないから、月に一度も訪れてない。
最近は半年くらい前だったかな……その時も、たしか店長の用事で行ったんだっけ。
空を見上げると、嫌になるくらい厚い雲が広がっている。カバンに折りたたみ傘があるのを確認してから、自転車をこぎ始めた。
けど、あいにく今日は風がとても強くて、しかも向かい風だった。
マフラーで鼻までガードしても冷たい風が肌に痛いくらいだ。息苦しい圧迫感に耐えながら、重いペダルを必死に漕いでいると、途中でちらほらと雪が舞いだした。