双生モラトリアム


ちょうど診察が終わるころに私の掛り付けであり、颯の働く産婦人科に来た。

「大丈夫!怖いことは何~もありませんわよ」

40代くらいの顔見知りの看護師の林さんがわざわざ私のために残り、検査のすべてに付き合ってくれた。たぶん颯が頼んでくれたんだろうな。

「立花先生、ナースたちから人気あるから気をつけてね?ま、わたしは結婚してるから対象外だけど」

林さんのカラカラ笑う明るさが救いになって、不安や緊張感が少しだけ和らぐ。

「怖ければいつでも連絡して。ほんとは患者さんと連絡先交換はNGだけどさ、バレなきゃいいわよ」
シイッとひとさし指でジェスチャーした林さんに、私も可笑しくなって同じ仕草をして見せた。
握らされたメモには、電話番号とライムのID。
個人的に相談に乗ってくれる、というのは心強い。借りてるスマホにアプリを入れても良ければ、連絡してみようか。

他の検査が終わり、超音波での画像診断になった時。 颯が「うん」と頷いた。

「妊娠6週目……だね。ここに赤ちゃんを包む胎嚢(たいのう)という袋が見える。心拍も確認できるね。ピコピコ動いてるのが見えるだろう?あれが心臓だよ」

「心臓……」

言われるまで、全然気づかなかった……。

赤ちゃんの大きさはまだ5㎜ほどだと教えてもらえたけど。

自分がやっぱり妊娠していたという衝撃で、颯の説明も頭のなかに入ってくれなかった。

< 70 / 88 >

この作品をシェア

pagetop