双生モラトリアム
「唯……」
「…………」
産婦人科からの帰る車のなかでは、重い沈黙が満ちていた。
最悪の予想が当たってしまって、ショックを受けた頭の中は真っ白。何も考えたくないし、何も見たくない……聞きたくない!
怖くて怖くて、自分の体を抱きしめてガタガタ震える。そのうちじんわりと涙がこぼれ落ちると、後から後から流れて止まらない。
颯は何も言わずに運転をしてたけど、マンションに着いたのか車を停める。
「唯、外に出られる?」
「……」
このまま車で泣いていたところで、現実は変わらない。重い体を動かし車外に出るとき、颯は自分のコートを私の体にかけてくれた。
「もう3月だけど、夜風はまだ冷たい。体を冷やしちゃダメだよ」
「……ありがとう」
彼にお礼を言って足を踏み出して気付いた。ここは、彼のマンションではなくずいぶん古びた団地ということに。
クリーム色の箱のような鉄筋コンクリート造りの同じデザインの棟が等間隔にずらりと並んでるけど。半数は茶色の汚れが目立ち、手摺りの塗装が剥げかけてる。出入り口はベニヤ板で塞がれ、周囲の敷地は雑草が延び放題。出入り禁止の黄色い柵が設けられ、古い棟には近づけない。
この、見慣れた風景……忘れるはずもなかった。
「颯……ここって……」
「うん、かつて僕たちが住んでた団地だよ。ただ、県の予算不足で建替えは半分で終了してしまったけどね。あれから取り壊しもされずにずっと放置されてるんだ」
懐かしい……
近くのスーパーに行くための近道。給水塔。錆びて原型がわからない遊具。お化けが出ると噂だった浄水槽……。砂場に……ブランコ……滑り台……シーソー。ジャングルジム。
放課後、夢中になって遊んだ記憶が甦った。