双生モラトリアム
夕闇が迫るなかで、公園に子どもたちはない。寂しげな光景に胸を打たれ、ブランコに腰を下ろした。
「ねえ、颯。“いっくん”だったあなたはブランコが大好きだったよね」
「そうだね……いつか空を飛べそうな気がしたからかな。自由になりたかった……愛人の子どもとか兄の病気とか……そんな下らない現実からね」
昔を思い出したのか、颯は切なげな顔をした。
「でも……“ゆーちゃん”と遊んでいる時だけは、すべて忘れられた。君は、僕の素性を知らなかった。だからよけいな感情をもたず、ただシンプルに“友達”と慕ってくれたから……とても、とても居心地がよかったんだ。君がいたから、僕は救われた……約束も僕の大切な支えになったんだ」
「颯……わ、私も。家には誰もいなくて寂しい時に、“いっくん”がいたから。楽しくて懐かしくて優しい思い出がたくさんできた……また会うって約束だって、私の生きる支えになってた。私がこうして生きてこられたのは、颯のお陰だよ」
颯も隣のブランコに腰掛けて、軽く揺らす。私は体の負担を考えてブランコはこがなかったけど。
「うん……僕たちはお互いに必要だった。17年前には引き裂かれてしまったけど。僕は、今もまだまだ“ゆーちゃん”が必要だよ……いや」
ギッ、と颯は軋む音を響かせてブランコを停める。そして、真剣な眼差しを私へ向けた。
「……僕にとって“ゆーちゃん”……唯は、一生必要なひとだ。離れたくない……だから」
立ち上がった颯は、ポケットからなにかを取り出す。そして私の前で跪づくと、ビロードの箱を開いて見せた。
「唯、僕と結婚して一生そばにいて欲しい……お腹の子どもとともに」
ビロードの箱の中は……私の誕生石をちりばめた婚約指輪だった。