双生モラトリアム
よく見ると、颯の手が震えてる。
ビロードの箱に収まってる婚約指輪は、四つ葉のクローバーをデザインしたペリドットの指輪だった。
「変わらない……ね、颯は」
ちょっと強引で無鉄砲で……優しくて、どこまでも繊細な彼。
初恋は、“いっくん”だと思って、樹に執着して罪を重ねてきた私。
でも……
もう、解放されていいの?
いっくんでなく、颯の腕に……飛び込んでも。甘えていいの?
私の呟きを聞いた颯は、優しく私を抱きしめてくれた。
「いい……たとえ君が罪人でも、僕は構わない。一緒に罪を償うし、不幸も不運も半分引き受けるよ……代わりに、幸せを君にあげる。今まで味わえなかったぶん、たくさん、たくさんあげるよ」
(本当に……それが現実になったら嬉しい……でも)
「ごめんなさい……とっても嬉しいけど……少しだけ考えさせて……」
私は、そう答えるのが精一杯だった。
本音は、彼の手を取りたかった。その腕に飛び込んで安心したかった。
でも……
(舞と話をしないと……もう、関わらないと安心させてあげよう)
もう、清算するつもりで樹とも話をして……その足で舞に。そう告げると、わかったと楓は同意してくれた。
「僕も、同席するよ……その間だけでもこの指輪をするといい」
「……うん」
舞を安心させるためにも必要だろうけど……
何だか、嫌な胸騒ぎがして仕方なかった。