双生モラトリアム
双子のモラトリアム


颯が「改めてお母さんに挨拶したい」というから、迷ったけれど。私もお母さん……いえ、お義母さんときちんと話をしようと決めた。

今まで私を育ててくれたのは確かなのだし、成人してからもあれこれ気にかけてくれて……。

恩人に後ろ足で砂をかけるような、恥知らずにはなりたくはない。


一度つわりが始り妊娠がわかれば、今までが嘘のように体調不良に悩まされた。スーパーに復帰どころではなく、そのうち挨拶しようと思いながら電話で辞意を伝えておいた。
唯一優しかった店長だけは「落ち着けばまたパートタイムででも働いてくれて構わないよ」と言ってくれて。改めて、恵まれた職場だったなと感じた。

店長の計らいで一度退職扱いになるけど、籍は置いたままにするから復帰は好きなタイミングで……という形に。少しだけホッとしたら体調もわずかによくなり、つわりが少しだけおさまった日にお義母さんをマンションに招いた。
なるべく私の体調を考えたことで、足の悪いお義母さんには楽なようにエレベーターを使ってもらう。

「どうも、春日 冴です。娘がお世話になっております」

ペコリと頭を下げた2ヶ月ぶりのお義母さんはちょっと痩せてはいたけれど、思ったより元気そうで良かったと思う。
ネイビーのワンピースとステンコートを着て、相変わらず地味な印象。

(そういえば……お義母さんは以前もっと普通に色んなカラーリングを身に付けていたのに……グレーとかネイビーとか地味な色を着るようになったのは、事故に遭って退院してからだったっけ……)

ふと、なぜかそんな些細な点が気になった。


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