双生モラトリアム
「……私の本当の母は……お義母さんの双子の姉、咲って人だったんだよね?」
私がそう訊ねると、涙を拭ったお義母さんは「ごめんなさい……取り乱して」と謝りながら頷いた。
「ええ……私と姉は一卵性の双子だったの。生まれた時から一緒で、何でも同じにしなきゃ気がすまないくらいだったわ。学校も服装も趣味嗜好まで同じ……でも、まさか。幼なじみの“カッコいいお兄ちゃん”まで、同じように好きになるとは思わなかったわ」
だけど、とお義母さんは継ぎ足す。
「咲はどちらかと言えば控えめで……いつも妹の私を優先してくれた。私は積極的で、欲しいものは欲しいというわがままな娘だった。
だから、自分から賢さんに積極的にアタックしたわ。咲も応援するって言ってくれて……短大を卒業してから賢さんと私は結婚したの……幸せだったわ。姉が妊娠してると気づくまでは、ね」
ふふ、と涙を流しながらお義母さんは語ってくれた。
「二人は、私が知らないうちに密かに逢っていたの。結婚して浮かれていた私が馬鹿みたいでしょう?妊娠して幸せが絶頂の時……皮肉にも、経験者だから姉の体調不良の原因を見抜けた。
咲はひたすら隠してたけど……
けど、まさか……咲は役所に妊娠の届け出すらせず、病院の検診にも行ってないって思わなかった。咲の妊娠が表沙汰になったのは……私がちょうど出産のため産婦人科に入院してた頃。
難しい妊娠で帝王切開を予定していたのだけど、賢が出産の兆候が現れた血まみれの咲を運んできたの。
二人は事故に遭って……誰がどう見ても咲は長くないとわかるくらいひどかった。
でも、咲は自分の命よりも子どもをこの世に生みだすことを優先したの………舞とほぼ同時刻に生まれたあなたを賢が育てると決めて。咲はありがとう、お願い……と。私にも託して亡くなったわ……だから、あなたたちを双子として育てたの」