双生モラトリアム
5月に入ったその日は朝からよく晴れて、風も爽やかな最高のスタートだった。
妊娠も4ヶ月……14週目に入っていて、安定期に近づいたころ。
颯の許可を得て、職場にパートとして復帰する1日目だった。
「わざわざついて来なくていいのに……」
「うん、でもやっぱり心配だし……送らせてもらうよ」
徒歩10分程度の近所のスーパーに出勤するだけなのに、過保護な颯には苦笑するしかない。
まあ、あんまり断っても不機嫌になるし……今回だけは、と渋々車に乗り込んだ。
「体、冷やすなよ。重いものはもつな……少しでもおかしかったら早退させてもらって。いいね?」
「はいはい」
「唯、なにかあれば連絡するんだ。今日はまた迎えに来るから。1時終わりだったよな?」
「うん……(歩いて帰れるから勿体ないよ)」
「なにか言った?」
「なんでもないよ……颯、ありがとうね」
私がお礼を言うと、颯は「おう」と軽く応じて、車を駐車場から出した。
(ほんと……大丈夫だよ。颯は心配性過ぎるよ)
約4ヶ月ぶりにスーパーに復帰すると、外部からのパートさんが増えてた。どうやら、親族の社員が社のお金を使い込みをしていたらしく、捕まったとのこと。だから、経理を預かる私に冷たかったわけか……。
新しく入ったパートさんたちはずいぶん気さくで、一気に居心地がよくなった。
(やっぱり……思いきって復帰して良かった)
店長には、感謝するしかない。こんな私をまた拾ってくれたんだから。
そして和やかなうちに退勤時間を迎え、スーパーの裏口から荷物チェックをして外に出たんだけど。鼻についたのが……メントールの匂い。
「……唯」
呼ばれたけど、知らないふりを装ってなるべく速足で歩く……でも、すぐに腕を掴まれた。