双生モラトリアム
突然、 後ろから抱きしめられた。その腕の中は……忘れられない、懐かしい力強さ。
でも……
私は首を横に振ると、放してほしくてもがいた。
「逃げるな……唯」
「樹、放して!私は……もう、あなたとなんの関わりもない。お願いだから、舞だけを見てよ!」
必死になって、樹を説得しようとした。けれど……衝撃的な言葉が樹の口から出て。動きを止めるしかなかった。
「舞とは、婚約破棄した」
「え……」
舞と、婚約破棄……?
あれだけ、舞が喜んで……幸せになれるって言ってたのに。
どうして……!!
「なぜ……そんなひどいことが出来るの!?舞は……本当にあなたのことが好きなんだよ!舞の気持ちを蔑ろにして……ゆ、許せない……」
怒りのあまりぶるぶると体を震わせると、樹はフッと笑った。
「唯、妊娠したんだろう?」
びくっ、と肩が跳ねた。お母さんには口止めしていたし、必要だから職場には伝えたけど……それ以外に伝えたことはない。なぜ?と混乱していると、樹はそっと私のお腹を撫でた。
「オレの子どもだ……唯、おまえはやはりオレのモノという証だ」
そっと指に触れられ、冷たく硬い感触を左手に感じた。
「えっ……」
いつの間にか左手薬指にぴったりのサイズの大きなダイヤモンドリングがはまっていて。呆然とする私の耳元に、樹は囁いた。
「結婚しよう、唯……おまえはオレが好きなんだ。なんの問題もない……」
結婚、という単語でハッと我に返った私はすぐにダイヤモンドリングを指から抜くと、キッと樹を睨み付けた。
「私は……あなたと結婚しない!私は、颯が好きなの!あなたのことは好きじゃないわ!!それに、この子は颯の子ども……勘違いしないで」