双生モラトリアム

「何をバカな……唯、アイツにほだされたのか?アイツは昔から同情を引くのが得意だった……騙されるな」

樹の、蔑むような顔……。

ああ、舞にそっくりだ、と気づいた。

「同情なんかじゃない!あの人は……颯はとんでもないくらい努力する人よ。そして……優しいひと。こんな不出来で欠陥だらけの私でも、そのままで良いって包み込み受けいれてくれる……だから私は、あの人が好きになったの……樹、なぜ兄弟なのに……そんなに颯を蔑ろにできるの?
もっと話ができたはずよ!舞とも……もっときちんと話して。私だってお義母さんと話して解りあえた。樹だってできるはずよ」

舞と私のように、拗れてしまった二人。樹が私に執着するのは、弟への反発からかもしれないと思えて仕方ない。

だけど……樹は、聞く耳を持ってくれなかった。

私の後頭部に手を回した樹。キスするつもりだ……!と気づいた私は咄嗟に手のひらを出してガードしようとするけど……突然、指を噛まれて痛みから手を引っ込めた隙を逃さず、強引に唇を重ねられた。

「……っ!!」

必死に抵抗をするけど、私の弱点を知り尽くした彼のキスに翻弄されて体から力が抜ける……。

(嫌だ……嫌!颯、お願い……助けて!!)

私がそう思った瞬間、駐車場の向い側からざわめきが聞こえる。誰かが、危ない!と叫んだ。

樹も異変を感じたようで顔を上げたけど、腰だけはしっかり抱かれてしまっていた。

カツン、カツンと甲高いヒール音を響かせて現れたのは、舞。彼女には珍しくほとんどメイクはせず、上下が合ってないシャツブラウスとタイトスカート。

一番の違和感は……手に包丁を持っていることだった。

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