双生モラトリアム

きゃあああ!と誰かの悲鳴が、呪縛を解いた。

「そ……颯?」

私に覆い被さった颯は、荒い呼吸で訊いてきた。

「唯……無事か?」
「うん……大丈夫……颯は?」
「ああ、僕も大したことないよ……」

そう言って笑ったから、ホッとしてわざと軽口を叩いた。

「もう、颯。遅いよ」
「ああ……すまない……」
「仕方ないなあ……っ!?」

颯の背中に腕を回して、気づいた。
ぬるっとなま暖かい液体が……彼の背中を流れていると。

「そ、颯……まさか……」
「大丈夫だ……言ったろ?僕は唯と子どもを守るって……だから、大丈夫だ。ウソつきになならないよ」

穏やかに頬笑む颯の顔から、どんどん血色が失われていく…………。

「ダメ……喋らないで!颯、お願いだから……」
「離れてください!応急処置をします!!」

看護師資格のあるお客さんが、咄嗟の応急処置を施してくれた。程なく救急車が到着してストレッチャーで颯が運ばれる。

「患者さんの御家族はいらっしゃいますか!?」
「はい!私が……彼の婚約者です!!」

なんの迷いもなく答えると、急いで救急車に乗り込む。その前に舞の様子が気になってちらっと振り返ると……樹が錯乱する彼女を抱きしめていた。

「舞……すまない……そこまで追い詰めたのはオレだ……これからずっとそばにいてやる……一緒に罪を償う……だから許してくれ……」

警察官数人に囲まれた二人は、救急車が道路に出るとあっという間に見えなくなった。

「颯……颯、お願い死なないで……!!」

内臓が損傷して大量出血が見られるということで、緊急手術が行われた。

颯が生死をさ迷っている今になって……やっと私は認められた。

颯を、失いたくないと。
颯と、子どもと……みんなで家族を作りたいのだと。

「お願い……何回も結婚してあげる……だから……颯、帰ってきて!!」

非力な私はただ、祈るしかできなかった。



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