双生モラトリアム
エピローグ


「ねえ、お母さん……お父さん今日はご機嫌みたいだよ」
「そう、良かったね」

さすがに子どもたちも生まれた時からで、慣れたもの。
長男の陸(りく)に長女の鞠(まり)は、僅かな変化でもあの人の機微がわかるみたいだ。

「今日は、小学校の入学式でしょ。ちゃんと支度はできたの?」
『は~い!!』
「もう、返事だけはいいんだから……陸、ネクタイ忘れてる。鞠、ランドセルちゃんと持ちなさい」
『はぁ~い』

ダルそうな返事の仕方は、遺伝を感じる。思わずクスリ、と笑って二人の頭を軽く撫でた。

「ほら、お父さんが目が覚めた時に呆れられないようにね!二人とも」
『は~い!』

「お父さん、鞠、小学生だよ?ランドセル似合うかな?」
「ボクも!人生初スーツだよカッコイいよね!将来は父ちゃんみたいに立派なお医者さんになって父ちゃん治すからな!」

双子でも、二人は仲がいい。そして、会話をしたことがない父親でも、ちゃんと慕ってくれてる……。

「颯、二人はちゃんと育ってるよ……あなたが約束通り守ってくれてるから……だから、安心して好きなだけ眠ってて……」

7年前にあった、妹の舞による傷害事件。私を庇い傷ついた颯は一命をとりとめたけど……大量出血による後遺症で、意識不明のままずっと眠っている。
私は颯から記入済みの婚姻届を預けられていたから、自分の分を記入し役所に提出した。颯のそばにいられる資格がどうしてもほしくて。

マンションに颯のための部屋を作って、病院から自宅療用に切り替えてもらった。あれから私も必死に勉強をして専門性のある資格を取り、ほどよい収入を得てそれで暮らしてる。

ちなみに、舞は心身衰弱で責任能力の欠如が認められ減刑はされたけど。おそらく簡単には戻らないだろう……と言われてる。そのそばには会社を辞めた樹がずっとついてる。

悲しいけど……もう、関わらない方がいい。舞は私の写真を見ただけで錯乱してしまう。
これ以上どうにかしようとすることは、私のエゴになるから。
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